数日前Twitterで知った田中泯さんの映画「名付けようのない踊り」を観てきた。
田中泯さんを認識したのは、葛飾北斎の人生を描いた映画「HOKUSAI」なのでわりと最近だけど、今日プロフィールを読んだら、今まで観た数々の映画にも出られていたことを知った。
そして俳優だと思い込んでいたけれど、ダンサーのお仕事が本業だったのということも初めて知った。
この映画を観たいと思ったのは、予告の動画に圧倒されたことと、「五感を研ぎ澄ます映像体験」という言葉だった。
2017年8月から2019年11月までポルトガル、パリ、東京、福島、広島、愛媛などを巡りながら撮影したらしい。ちなみに田中泯さんは現在76歳。
どのジャンルにも属さない《場踊り》の映像と、40歳から営んでいる農業の野良仕事の様子、また、田中泯さんご自身のナレーションでハッとさせられる言葉も数々聴けて、本当に刺激的な映画だった。
映画を観る前に、もしかして途中で飽きてしまうのではないか? とダンスが特に好きではない私は心配だったけれど、あっという間の2時間でそのことにもびっくりした。
ダンスを観ているというよりも、命がそこにあるのを感じさせてもらった思いだった。
「こどもらしさを共存させて生きること」「こどものころの自分のこと」を「私のこども」と表現したり、田中泯さんが私淑されている土方巽さんの踊りを見たときに「プライドを持って帰れるようなところに感動した」と言っていたことなど本当に心に響いた。
「ダンスは所有できない。ダンサーと見る人のあいだに生まれる」という言葉を聞いて、なんだか嬉しくなった。
この映画を観ても感じたことであり、絵画などのアート作品を観ても最近感じることだけれど、本当に素晴らしい芸術というのは、高い位置に「芸術」として鎮座するのではなく、生活の中に降りてきてくれて、鑑賞者に対して対等の関係を求めてきてくれる気がするのだ。「自分はこう表現するよ。だからあなたはあなたの感じ方を自由に楽しんで」と言ってくれているような気もする。
受動的に思えていた「鑑賞」という行為を能動的に感じることができ、生きるエネルギーが湧いてくる、そんな映画だった。