一年前の今頃は、私は、文章の教室で、フィクションを書く勉強をしていた。
フィクションを書く、と言っても、長編小説ではなく、あくまでも、原稿用紙15枚程度のショートストーリーだったけれど、それでも、頭を捻りながら、構想を考えて、週にひとつのペースで書いては提出していた。
「いいね!」と言ってもらえるものもあれば、「なんの盛り上がりもない」と突っ返されることもあった。
最初から、フィクション、物語を書くことを目的に、文章を習っていた訳ではなかったのだけれど、毎週書いていたら、ノンフィクションの面白そうなことは書き尽くしてしまい、恐る恐る、半ば、後ろ向きに挑戦することになったのだった。
いくつか書いて、私には、フィクションを書くことは向いていないかもしれないと思った時、生活のリズムも変わり、その文章の教室をやめた。
それから、数えるほどしかフィクションは書いていない。
また、いつか書いてみよう……。
そう思いながらも、日常に忙殺されて、フィクションを書くことが少しずつ過去のものになってきていた。そんな時に出合った、この小説だった。
『骨を弔う』 宇佐美まこと・著 小学館
偶然立ち寄った、普段は行かない書店の店頭で、PRの動画を流しながら、猛烈に、勧められていた、この小説だった。
装丁と帯、そして、動画に心動かされて、思わず手に取り、衝動買いをした。
本を衝動買いすることは、時々、あるのだけれど、その種類は、ビジネス書や自己啓発本が多く、小説は滅多なことでは買わない。
それが、どうしても読んでみたくなったのだ。
2018年上半期最大の衝撃と感動
骨格標本が発掘されたことを報じる地元紙の小さな記事を見つけた家具職人・豊は、数十年前の小学生時代、仲間数人で山中に骨格標本を埋めたことを思い出す。
しかし、それは記事の発掘場所とは明らかに異なっていた。同時に、ある確かな手触りから「あれは本当に標本だったのか」との思いを抱いた豊は、今は都内で広告代理店に勤務する哲平に会いに行く。
最初は訝しがっていた哲平も、ふと、記憶の底に淀んでいたあることを口にする。
リーダー的存在だった骨格標本埋葬の発案者・真実子の消息はわからないまま、謎は思いも寄らぬ方向に傾斜していく。
小学館のHPより
スルスルと読み進められた。
文章の教室で習った、読みやすさ、リーダビリティに優れていた。
キャラクター設定も、人物描写も、構成も、素晴らしかった。
展開も、謎が多く、惹きこまれた。
まとまった時間は取れなかったけれど、時間ができると、読みたくなり、すぐに読み終わった。
これか!
アドバイスを受けても、なかなか書けなかったことが、全てできていた小説に思える。
プロを捕まえて、そんな風にいうのは、おこがましいけれど、素晴らしい小説だった。
内容について書きたいが、ネタバレになってしまうことが心配なので、やめておく。
店頭で流れていたPR動画は、YouTubeでも見れたのでリンクを貼っておく。
全国の書店員さんが、ぜひ売りたいと思っている小説らしい。
謎解きミステリーだけでなく、人の後ろ暗さ、弱さ、そして、強さが見られる人間ドラマに溢れた、ある意味、家族小説とも言えるかもしれない。
読み進めるのがつらい部分もあるけれど、気になる方には、ぜひ、圧倒されてほしいなと思う。
自分が作り出した世界観で、人を楽しませることができる小説家という仕事は、やはり、魅力的だなと、改めて思った。