今日は、少し色めき立って皮算用して、絶句してガッカリして、そして、反省した。
これは、小一時間ほどの中で起きた、私の感情の変化だ。
息子のスイミングスクールのテストを見学した時のことだった。
このブログにも何度も書いているのだけど、息子はスイミングスクールに通っている。
年長の春からだから、もう5年過ぎた。
水に顔をつけられないところから、3年半かかり、ようやくクロールで25m泳げるようになった。
そのあと、背泳ぎ、平泳ぎを泳げるようになり、そして今バタフライを習っている。
今日はその初めてのテストだった。
今までのペースからすると、息子には申し訳ないが新しい泳ぎ方を習い始めて最初のテストではまず受からないと思っていた。
息子の練習風景は、2階にあるガラス張りの見学席から見ることができるのだけれど、新しいクラスになる時とテストがある時以外は最近は見ないことにしている。
見ると、どうしても泳ぎ方や態度に物申したくなったり、一人ぼっちでつまらないそうにしているのを見ると私が切なくなったりしてしまうからだ。
本人が本意でないスイミングスクールに送り込みながら見ないのも申し訳ないと思った時もある。
けれど、戻ってきた時に、私がイライラしているのはもっとよくないと思うようになった。
私は私で夕飯の食材を買ったり、あるいは、喫茶店で読書をしてご機嫌でいた方が帰り道もお互い気分がいい。
そんなわけで、バタフライの練習の姿を見るのは初日に続き今日は2回目だった。
初日は足だけの練習だったから、どれだけ泳げるようになっているかは全くわからなかった。
準備体操の後、流しの練習で、まずは、背泳ぎから始まった。続いて、クロール。そして、平泳ぎ。
美しい、というわけではなかったけれど、頑張って泳いでいた。
そして、いよいよバタフライ。
最初は、足だけだったようで、コーチに少し直されていた。
ああ、頑張っているのはわかるけど、もう少しかな?
想定内だった。
やっぱりな、今日、受かることなんてないよな……。
そう思っていた。
しかし、最後に腕をつけたバタフライ。
コーチに顎を引くようにアドバイスをされて、頷いて泳ぎ始めた息子の姿に目を見張った。
泳げているのだ。
しかも美しい。
あーでも途中で立ってしまうのかな? と思ったら、しっかりと25m泳いでいたのだ!
すごい!
もしかして! もしかすると! 今日合格しちゃうんじゃない?
途端に色めきだった。
いや、でももしかしたらまぐれかもしれない。
失礼ながら、そう思いなおした。
ところが次の息子の番で、もう一度泳いだ時も、さっきと同じくらいうまく泳いでいた。
これはもしかして、もしかしちゃう?
もしも、今日、合格したら、受付で新しい色の帽子を買える!
頑張ったご褒美に、ゴーグルも買っちゃおうかな?
今使っているのって、幼稚園の時に買ったやつだし!
バタフライ泳げるようになったら辞めたいって言ってたけど、来月は新しい色の帽子のクラスで頑張ってもらって、その間に気持ちが変わったらいいな!
そんな風に、皮算用し始めた。
いよいよ、テスト。
息子の番。
コーチの合図にしたがって、息子は泳ぎだした。
あれ? ちょっと、どうした?
順番が最後だったからか、ぼんやりしていたからか、息子は何を思ったか、平泳ぎを泳ぎ始めてしまった。
数回、水をかいたらコーチに遮られた。
ジェスチャーでバタフライの手の動きを示された。
息子は、ハッとしたように、その場に立ち止まると、一度戻ろうとした。
しかし、コーチはそこから泳ぐように指示した。
息子は気を取り直して、バタフライを泳ぎ始めた。
美しい泳ぎ方だった。
悲しいほど上手だった。
これは、ダメだよね……やっぱり。
コーチのよっては、2回泳がせてくれるコーチもいるので、ちょっとだけ期待したが、もう泳がせてはくれなかった。
残念。
結果、やはり合格できなかった。
不合格の理由は、やはり、テストで勘違いして、他の泳ぎ方をしたからだった。
息子に
「そうか、残念だったね。いやーでも、本当に上手に泳いでいてすごかったよ! 綺麗に泳いでいた! あー本当に残念だね」
と言った。
で、残念と言いすぎてしまったと思って、
「こんなこともあるよね」
そう言って背中をさすってみた。
息子は頷いていた。
その後、約束していた靴を買って帰った。
一瞬忘れては、また残念な気持ちが蘇ってきた。
息子は、何にも言わなかったから、口に出すのは今度は控えた。
帰り道、なんかの話の流れで、前の校長先生の方がよかったという話になった。
この4月から校長先生が変わったのだ。
へー、意外って思った。
「なんで前の校長先生の方が良かったの?」
息子の昨年度のクラスは、学級崩壊気味になって、一時的に校長先生も介入してくださった時期もあった。
その時に息子の口から校長先生の話は出なかったので、びっくりした。
話を聞いてみると、前の校長先生は「スモールステップで指導してくれた」「叱るときはしっかり叱るけど、褒めるときはしっかりと褒めてくれた。そのメリハリが良かった」
ということだった。
よく見ているなと思った。
そこまでは、穏やかな気持ちで聞いていられたのだけれど、
「お母さんと正反対で……」
と言われた時に、ムッとした気持ちになった。
「それはどういうこと?」
ちょっと突っかかって聞いたら、息子にとって、私は、急かす人らしいのだということがわかった。
それを聞いてハッとした。
え? 私、結構、スモールステップを提示しているつもりけど、と思った。
ただ、思い当たったのは、そのスモールステップを踏むことは確かに急かしているかもしれないということだった。
それに、スモールステップを提示することが面倒になって、「とりあえずやってみて!」ということも確かにあると思い当たった。
表面上スモールステップを提示しても、そのステップを今踏むか、いつ踏むのかと焦る気持ちが伝わってしまっているのだと反省した。
「じゃあどうしたらいい?」
本当にどうしたらいいかわからなくなって聞いてみたら
「わかんないよ。そんなの自分で考えて」
息子にそう言われた。
ちょっと突き放されたようでしょんぼりした。
「でもさ、お母さん、どうしても、勉強しようとか、お風呂に入ろうとか、もう寝る時間だよってことは言うことになるよ。全部自分で管理してくれてら言わないこともできるかもしれないけど」
「うん、そうだよね」
結局、結論が出ないまま、家に着いた。
食事を作って、ご飯を食べてから、なかなか宿題に取り掛からない息子にやはり
「勉強しちゃおう」
って言った。
まだ、しばらく、そうやって急かすことはしてしまうと思うけれど、それでも、今回の会話でわかった息子の気持ちを、ちゃんと受け止めて、改善すべきことはしようと思う。
スモールステップを提示するだけじゃ足りなかったのかもしれない。
「息子のペース」を大切にすること、それが足りなかったような気がする。
息子が、残念ながらスイミングのテストで合格できなかったことから、たくさんのことに気づかせてもらった。
そのことに感謝しながら、また息子を応援しようと思う。