昨日は、地域の【夜間訓練】という行事に参加した。
はて? 何をするのか? と、思ったら、何か大きな災害が起こった時に、行政や、消防、地域のボランティアの方々が中心になって作ってくれる避難拠点の【夜間訓練】で、
「PTAの役員の方にも、できるだけ多く参加してほしい」
と、声がかかり、では、参加しましょう! と、参加したものだった。
うどんを作って食べます! と、言われていたので、火をおこしたり、野菜を切ったりするのだろうか? と、ぼんやり想像しながら、持ち物と書かれた、スリッパと懐中電灯を持参して、厚着して、向かった。
実際に参加すると、【夜間訓練】は、バーナーに火を付ける体験こそ、させてもらったものの、あとは、避難拠点として、学校などの建物を使う場合、こんなチェックリストに沿って手分けして点検するんですよ、と、教えてもらい、実際に懐中電灯を照らし壁を見て、想像以上に暗いとひびなど見つけづらいなと感じたくらいで、あとは、隊員の方々が作ってくれていたうどんができあがるのを待っていて、申し訳ないくらい、楽な訓練だった。
光ってありがたい!
太陽、最高!って思ったひと時だった。
が、実は……。
この訓練に行く道々で、私は思わぬ試練に出くわしたのだ。
それは、17:30少し前、池のあるそこそこ広い公園の中を通り、集合時間に遅刻しそうで、気持ち焦り気味に、集合場所に向かっていた時だった。
辺りは、陽も落ち、だいぶ薄暗かった。
「すみません。あの……」
急に、暗闇から声がして、見ると、小学校高学年くらいの男の子が、私に話しかけていた。
「はい? どうしました?」
私には、小4の息子がいるものの、あまり、他のお子さんの扱いが得意ではない。
どうした? とか、あまり、気軽に言えず、無意識に丁寧語を使っていた。
なんだろう? と、ちょっと緊張した。
「あの……」
次の言葉を続けようとした少年と私の間を、一台の自転車が通り過ぎて、私の緊張は、増した。
「携帯を池に落としてしまって。一緒に探してもらえませんか?」
え? 携帯? 池? 探す? なぜ、私?
いろいろな疑問が、頭に浮かんだけれど、キャッチセールスのように、
「いえ、結構です」
と、困り顔の少年を置き去りにもできず、
「えー、そうなんだ、どこに?」
と言いながら、池のほとりに導かれた。
内心参ったと、思ったし、どう振る舞うのが正解かもわからなかった。
でも、とりあえず、何かしなくては、通りかがりの、助けを求められた大人として……。
「えっと、どの辺りに、落としたのかな?」
「いや、ちょっと、わからないです」
「え?」
どこに落としたのかわからないと、大人でも、厳しいよ、キミ……。
そう言いたかったが、飲み込んで、あ、と思った。
「おばさん、たまたま、今、懐中電灯もってるよ」
たすき掛けにかけたバックから、徐ろに懐中電灯を出して、とりあえず、足元の池を照らしてみた。
ドラえもんにでもなった気がしたが、残念ながら、普通の懐中電灯である。
サーっと照らしてみるも、それらしきものは見当たらない。
「池に落ちた? ぽちゃんって音したかな?」
「いや、わかりません。向こう側かもしれない」
どうやら、携帯の持ち主でなく、お友だちが、故意か不注意かはっきりわからないものの、投げて見失ってしまったらしい。
不思議なことに、お友だちは、悪びれる様子もなく、持ち主の子が、ひたすらうなだれていた。
「中に入って探すしかないな」
お友だちの方が、自分というより、持ち主か、あるいは、私に、中に入ることをすすめるかのように言って、いやいや、それは、できないし、やっちゃダメでしょうって思った。
「それは、やめよう。話すのちょっと不安で、怖いかもしれないけど、おうちの人に、話した方が良いとおばさん、思うな。もしも、中に入って、怪我しちゃったら、もっと、おうちの人に悲しむから」
何が正解かわからず、でも、それだけ言うと、少年は頷いた。
「力になれなくて、申し訳ないけど、おばさん行く場所があるから、行くね。気をつけてね」
「あの、もうひとつ、お願いがあるのですが……」
「何?」
「今、何時ですか?」
「17:30ちょっと過ぎ」
「ありがとうございます」
「じゃあ、行くね、気をつけてね」
若干後ろ髪を引かれながら、集合場所に向かった。
これでよかったかな?
ちゃんと、無事お家に帰れるかな?
不安でいっぱいになり、集合場所につくなり、PTAの役員の仲間に、事の顛末を話した。
「えー! そっか! ちょっと心配だね」
そう言って、もう一回、一緒に、池まで行ってくれると言ったのは、PTA会長だった。
会長は、私よりひとつ年上の女性。
「ごめんね。私だと力不足で」
「大丈夫だよ。ちょっと心配だよね」
彼女は、私が、あまり、子どもの対応が得意でないことを知っているので、助かった。
池のほとりにつくと、案の定、まだ、子どもたちは居た。
まだ、諦めがつかない様子だ。
「どう? 携帯見つかった?」
彼女が話しかけると、少年は、首を横に振った。
そこからが見事な対応だった。
私と手分けして、池と周りを懐中電灯を照らしながら一通り見て、もし、水没したら、今でも、明日でも同じくもう使えないこと、多分、キッズケータイなら保険に入っていること、子どもは、一度はなくすか壊すだろうと親は織り込み済みであること、池に入って怪我したり、お家に帰らないで連絡もつかず心配した親が警察に連絡してもっと大変なことになっちゃうかもしれないことを言った。
で、最後に
「君たちが、帰るのを見届けてから、帰るね」と言って、見届けたこと、全てがさすがだった。
「一定の納得をさせることが、大事だよ」
なるほど。
少年たちには、悪いが、私も一定の納得をして、夜間訓練に臨めた。
池の一件も、含め、光ってありがたい! 太陽、最高! だと思った。
少年達にとって、ベストではなかったかもしれないが、たまたま、懐中電灯を持っていた、人が良さそうな私に声をかけたことは、悪い選択ではなかっただろう。
困ったとき、声をかけてもらえたことをプラスにとらえ、こんなこと、もうない方がよいけど、万が一あったら、今回よりはもう少し、頼りがいある対応ができるようにしたい。
うどんは、めちゃくちゃ美味しくて、月も綺麗だったから、お代わりした。
多分、トータルではいい日だったと思う。