夏休みの宿題の中に、音楽で「リコーダーが吹けるようになる」というのがある。
夏休み前に、簡単なテストのようなものがあり、そこで引っかかった人は、夏休みの特別授業に出るか、予定があったりして出られない場合は、家で練習してできるようにしてくるように、と言われたらしい。
申し訳ないことに、その特別授業の日は、私が仕事のため、私の実家に朝から移動し祖父母と過ごしてもらうため、息子はそれに参加できなかった。
ある意味、私のせいで、参加できないわけだから、練習に付き合い、吹けるようにするミッションを感じていた。
何ができないか聞くと
「低いミを吹こうとしているのに、高いミになっちゃうんだ」
と言う。
以前、自分が小学生の時に使っていたリコーダーを引っ張り出して、息子と練習を一緒にやった時に、教えるというよりも自分が楽しみ過ぎて、息子を置いてきぼりにしてしまった反省があったので、今回は、自分は吹かないでおこうと思っていた。
しかし、息子の思いは違ったようだった。
「お母さんも、一緒に吹いて、見本を見せてよ」
「だけどさ、お母さんが吹くと、自分が楽しんじゃうからさ」
「いいよ。別に楽しんでも」
「そう?」
斯くして、今日も、リコーダーを引っ張り出した。
課題曲は、「もののけ姫」だった。
確かに、低いミを吹くつもりが、ピーと高くなってしまっていた。
「こうさ、ちょっと顎を引いてさ、『低い音を吹くぞ』って感じでさ」
どうしても、理論的な説明は難しい。感覚的な伝え方になってしまったが、どうにか、何回か練習して、少しいい感じにはなってきた。
完璧とは言い難いが、今日、詰めて、嫌になるよりも、この夏休みに何度か楽しんで練習した方がいいと思い、息子の気分に任せていた。
すると
「お母さん、この曲知ってる? 結構、感動的かも」
楽譜をパラパラとめくりながら、息子が尋ねてきた。
「え? MIDORI? 知らないなあ」
「YouTubeで探してみてよ」
検索すると、初音ミクが歌っているものが見つかった。
早速流すと、息子も一緒に歌い出した。
知らなかった。
調べると、今や、全国的に有名になっている、「緑のカーテン」は、小学校の先生が始めたものらしく、その思いを子どもたちと分かち合うためのメッセージソングらしかった。
2007年にできたようだ。
小4の息子の声は、まだ、声変わりをしていなくて、高音も抜けるように澄んで美しかった。
聴きながら、録音しておきたい気持ちになったけれど、歌いたくて歌ったのと、歌わせようとするのとでは、きっと純度が違うだろうと思い、今、この瞬間を耳に焼きつけることにした。
「いい歌だね。声も澄んでいて美しいよ」
「お母さんも歌ってよ」
私は、昔から、耳からだけの情報では正確な音が取れないので、楽譜を見ながら、リコーダーで音を取ってから参戦しようとして、リコーダーの練習を始めたら、息子は飽きてしまったようで、別の部屋に行ってしまった。
結局、また、私が暴走し、リコーダー学習の横取りをしてしまったことになったが……。
息子に教えてもらった、歌が、今、私の頭の中をぐるぐると巡っている。
息子が教えてくれたこと、私がそれをいいと思えたこと、それが嬉しい、日曜の昼間だった。