「今日ね、忘れ物しちゃったんだ」
「え?」
息子にそう言われて、3年生の通知表で
「一回も忘れ物がありませんでした。素晴らしいです」
担任の先生に、そう褒めてもらったことを思い出した。
褒めてもらいながら、ああ、忘れ物しないように私がサポートしすぎちゃったかな? っていう反省もあった。
そんな中の息子の発言、ドキっとした。
「何忘れちゃったの?」
「絵の具」
「あ」
サポートしすぎちゃったかな? って反省はしたものの、意図的に手を抜くことはできず、絵の具もランドセルの横にしっかり置いたつもりだった。
「忘れないようにね」
昨晩はそう言ったけれど、今朝は、息子も私もすっかり忘れてしまった。
毎朝、近所の同じクラスの友達との待ち合わせ場所は、家の目の前だ。
だから、彼女が持っているものを毎朝みて、
「あ、これ、持って行くんだった!」
と玄関に戻る時も時々あった。
今日は、その子が休みだった。
私のサポートだけではなくて、彼女の助けもあっての、忘れ物ゼロだったんだな。
「それで、大丈夫だったの? 絵の具はどうしたの?」
「今日、絵の具使わなかった」
「そっか。先生には言った?」
「うん」
「図工の先生? 担任の先生?」
「両方」
「なんだって?」
「次は持って来ましょうって言われた」
「そっか」
繊細な息子だから、もっと落ち込んでいるかと思ったら、意外に普通に話してくれてちょっとホッとした。
それでも
「ああ、初めて忘れ物しちゃった」
呟くように言ったから、ああ、やっぱりショックだったんだなって思っていたら
「忘れ物したら、忘れ物した人の気持ちが初めてわかった」
そう言った。
「え? そうか、どんな気持ち?」
「ああ、みんなが持っているもの、俺は持っていないなって寂しい気持ち」
「そうか。じゃあ、忘れ物しないように、どうしたらいいか考えてみようか?」
「うん」
失敗をすること。それを嫌う息子。
私も、「失敗は経験」って言いながらも、やっぱり怖い。
だから、うっかりしちゃって、忘れ物しちゃったことは、よくないことかもしれないけど、息子にとっても、私にとってもいい経験だったんだと思う。
「忘れ物したら、忘れ物した人の気持ちが初めてわかった」
そんな風に言った息子の成長を感じて、ちょっと嬉しかった。
そして、きっと、次は忘れないと思う。