「お母さん、なんか、これ、折れちゃった」
今朝、起き抜けに、息子の方を見ると、口からマウスピースと金具を出していた。
「え?」
どうやら、矯正のマウスピースの金具が折れたらしかった。
息子は、前歯が出ているので、マウスピース型の矯正をして寝ている。
上の歯のマウスピースからスキー板のように伸びた金具が、下のマウスピースに作られた溝を滑る形に作られているのだけれど、そのスキー板のようなものが一本根元からポキンと折れてしまったようだった。
「そうか、しょうがないから、今日、歯医者に行こう」
そんなにきつく言ったつもりはなかったけれど、寝起きだから自信がない。
しょうがないという言葉がつらかったのか、息子は、うなだれて
「ごめんなさい」
と言った。
「いいよ。仕方ないよ。あまり好きでないマウスピースを頑張ってつけたからこそ壊れたんだからいいんだよ」
あまりうまい慰め方がわからなかったけれど、私がそう言うと、息子は頷いてもう一度寝た。
しばらくして起きて身支度をしていた時に、旦那に
「これ折れちゃったから、多分、5000円くらいかかるけど、直していいよね?」
と言ったのを、息子が聞いていて、また
「ごめんなさい」
と言った。
「いいんだよ。仕方ないよ」
そう言いながら、仕方ないっていう言葉もよくないかな? と考えたけれど、うまい言葉が見つからなかった。
歯医者は当日予約はできないので、電話を一応して、緊急扱いで来院した。
電話と、診察室で、また事情説明をしないといけないので、現状を伝えたら、また息子がうなだれてしまった。
マウスピースを寝る1時間前くらいから慣らして寝るように。
あまり強く噛まないように。
作り直したら練習すること。
作り直すのに5400円かかること。
それらを言われて、私が、小さくなっていると、息子もため息をついた。
歯医者を出て、
「大変だけど、頑張ろう」
って声をかけた。
帰り、なんとなく、落ち込んでいた息子になんて言っていいかわからなかったけれど
とりあえず
「なんかうまくいかなかったり、落ち込んだりすることがあったとしても、それって、その時は、つらいかもしれないけれど、ちょっと時間が経つと、話のネタになったり、経験として力になったりするからさ、できるだけ、前向きに捉えると、人生楽しくなるよ」
と言ってみた。
そうしたら、ちょっと笑ってくれたから、まあいいかなと思った。
大人になったって、迷うことばかりなんだもの、まだこの世に生まれてから9年しか経っていない息子はさぞや、色々悩んだり迷ったりするんだろうな。
ましてや、ひといちばい敏感な気質だもの。
気持ちに寄り添うことに私自身が疲れてしまうこともあるけれど、適当に力を抜きながら、見守っていきたいと思う。