「ちょっと匂いが……」
昨日の朝、息子が私の側まで来て言った。
「え? 何の?」
毎朝、我が家は、全員冷たい牛乳を飲んでいたのだけれど、最近、旦那の胃腸の調子が悪くなったのをきっかけに、旦那だけ、レンジで温めるようになった。
そのあったかい牛乳の匂いが、息子にとってつらかったようだ。
「チーズの匂いがするんだよ」
「ああ」
息子は、冷たい牛乳、ヨーグルトは好きだけれど、チーズは苦手だ。
あったかい牛乳の匂いは、そうか、チーズの匂いに近いのか。
乳製品はどれも大丈夫な私は、むしろ匂いに鈍感らしい。
「わかったよ」
そう言って、旦那に、ちょっと申し訳なく思ったけれど、温めた牛乳を換気扇の下に持って行った。
そして、息子が学校に行ってから、食卓にそっと戻した。
そして、今朝、私は迷った。
旦那の牛乳を温めるか否かにだ。
もう、胃腸の調子は戻っているはずだから、冷たい牛乳でもいいかな? と思ったけれど、美味しそうにあったかい牛乳を飲む姿が頭に浮かんで、それは、ダメな気がした。
だからと言って、また、温めた牛乳を息子の前に置くのも無神経だし。
ああ。
しばらく考えて、二人の意見を尊重した折衷案として、温めた牛乳をとりあえず、また換気扇の側に置くことにした。
ポツンと置かれたマグカップを見るよりも先に、一応説明した方が、心証がまだいいだろうと思って、旦那に説明して、息子にも説明した。
「これが、二人を尊重する、精一杯の対処法なんだよね」
私がそう言うと
「でも、そんなに遠くに置かなくてもいい気もするけれど」
と笑いながら言っていた。
思い返してみると、息子が生まれてから、何かというと、息子を最優先に過ごしている。
「子どもだから、大人が我慢して、意見を聞いてあげよう!」
そんな気持ちが私にはあって、旦那にもそれを押し付けている気もする。
私たち夫婦が話をしていて、息子が割って入ってくると、よほど重要な話でない限り、息子の話に耳を傾けている。
でも、果たしてそれでいいのだろうか?
それは、息子をわがままにしてしまうことに繋がっていないだろうか?
しかも、旦那が疎外感を感じてしまわないだろうか?
私たち夫婦は大丈夫だろうか?
不意に、ぐるぐると不安に襲われた。
旦那の優しさに甘えて、息子中心の我が家だけれど、これからは、時と場合によって、優先する人を変えた方がいいのかもしれない。
たかが牛乳だけど、一事が万事かもしれない。
とりあえず、今日、旦那が帰って来たら、しっかりと話を聞こうと思う。
もしも、息子が話しかけて来たら
「今、お父さんと話をしているから、ちょっと待って」
そう言ってみよう。
そう思った。