涙と笑顔のあいだ

HSC(ひといちばい敏感な子)中1ひとりっ子男子の子育てを通し成長させてもらいながら、日常のモヤモヤの純度を上げるべく綴る40代主婦のブログ

診察券の枚数が増えても、ママ友には言わない理由【後編】

 

tearsmile24.hatenablog.com

 の続き……

 

「どうしても、水を飲まないんです」
「……わかりました。点滴しましょう……。うちでは、本当は、あまり点滴しないんですが……」
後ろ向きな発言に思えて、少し不安になったけれど、行くしかなかった。
後で、知ったことだけれど、赤ちゃんは肉付きもよく血管も細いので、点滴するのが本当に難しいらしい。だから、苦手で嫌がる医者も多いと聞いた。
だからこそ渋ったのだと思うけれど、親としては、医者なのだから、そんなこと言って欲しくないという気持ちだった。

18時。
小児科の診察が終わってから、先生と看護師さんで点滴をしてくれた。
ふたりでは、無理だからと、私に、息子が動かないようにしっかり押さえておくように指示がされた。
結局、血管に入らず、二度失敗した。
時々、経口補水液を飲ませようとしたけれど、飲まなかった。
もしかしたら、何かのきっかけで、水を飲み始めるかもしれないという希望的観測と、どうしても、水を飲まなかったら、救急で大きな病院へ行ってみてくださいということ、だだし、血管が復活するまで、しばらく、他のところでも点滴ができないことを告げられた。
え? このまま、放り出されちゃうの? 私は、どうしたらいいの?
目ですがってみたけれど、背けられて、これ以上は何もできないという無言のアピールをされてしまったので、あてもなく、帰るしかなかった。
泣くことにも疲れた息子は、私の胸の前で、小さくなっていた。

家に帰っても、水を飲むことはなかった。
しかたなくまた♯7119に電話をして、相談した。
その夜は、雪が降っていた。しんしんと降り積もっていた。
じっくりと話を聞いてくれて
「わかりました。では、救急車を手配しましょう」
と、電話口の女性は言ってくれた。
「ありがとうございます」
「雪も積もっていますし、ご自分で救急に連れて行くのも大変でしょうから。こちらから、救急車を手配した方がスムーズですからね」
もし、雪が降っていなければ、救急車ではなく、自分で救急窓口へ向かうくらいの緊急度だったと感じたけれど、総合的に判断して、便宜を図ってくれたようだった。
すっかり小児科に見放されてしまった思いの私にとって、それは、本当に、ありがたい提案だった。

救急車の音が、だんだんと我が家に近づいてきた。
普段は、通り過ぎるサイレンの音が我が家の前で止まり緊張した。
旦那が、外に出て、救急隊員たちを我が家へと誘導してくれた。
「えっと? この子かな?」
担架をもった3人の隊員たちが、少し驚きながら、ちょこんと布団に座る息子を見ていた。
「はい」
鞄から、血圧計などを取り出し、テキパキと検査をして、なにやら記入すると
「じゃあ行きましょうか? 担架はどうします?」
と、聞かれた。
「僕が抱っこしていきます」
と、旦那が言って、みんなで、ぞろぞろと外に出たのは、なんだか不思議な光景だった。

雪は、しんしんと、降り続いていて、救急車のありがたさを、ひしと感じた。

ひとりの隊員と、私たち家族が後ろに乗り込み、救急車は出発した。

病院へ着くと、頼もしかった救急隊員たちは、病院の方に引き継いでくれて去って行った。

何組かの救急の患者さんが待合室にいて、ほどなくして、息子の名前が呼ばれた。
診察室に行き、ひとしきり経緯を説明すると、点滴をすることになった。
さっきの小児科で息子を押さえつけたように、また立ち会うのだろうと覚悟をしていたら、親は来なくていいと言われた。
後で知ったのだけれど、それがむしろスタンダードなようだった。
場合によってはバスタオルなどでぐるぐる巻きにして、押さえつけて血管に針を刺すらしい。
その様子を見ることや、我が子の泣き叫ぶ声を聞くことがつらいだろうという配慮から、親には見せないらしいと聞いた。

冷静なつもりが、どうやら、気持ちが高ぶっていたようで、大事な説明を先生にし忘れていた。
息子は、左の中指と薬指を指しゃぶりする癖があり、精神安定剤のようになっていた。
だから、できれば、右腕に点滴してほしかったのだけれど、残念ながら、点滴されて、動かないように板に固定されていたのは、左腕だった。

指しゃぶりも許されず、泣くか寝るしかなくなった息子は、しばらくすると、私の腕の中で、眠り始めた。

1時間半くらいかけて、点滴し終わった後、確認に来た先生は
「こうなる前に、ちゃんと水分を取らせなきゃダメだよ」
と、言った。
「はい」
で、辞めて置けばよかったのに、ここ数日の思いがよぎって
「がんばって飲ませようとしたんですが、どうしても飲まなくて……」
と、私は続けてしまった。
私は、その後、おそらく、労いの言葉を期待していたのだろうと思う。しかし、それは、甘い考えだと、次の瞬間知った。
「飲まない! じゃなくてさ! 無理にでも飲ませなきゃダメなんだよ。スポイトでも、スプーンでも、何でも使ってさ!」
あまりの剣幕に、圧倒された。
「はい。すみませんでした。これからそうします」
こう答えるのが精一杯だった。

帰りのタクシーの中で、水分が戻りふっくらした息子の頬を見て、安堵とやるせなさに包まれた。

翌日、かかりつけの小児科の先生から、電話があった。
「その後、どうなりました? 気になって……」
少し申し訳なさそうにそう言ってくれた先生に、その後のことを手短に伝えた。
「そうでしたか。回復して、よかったです。この度は、力になれず申し訳ありませんでした」

その後、表向き、漢方薬を受け付けないのだから……という理由で、かかりつけ医を変えた。
この出来事を、ママ友には言わないことで、先生の誠意に対して、敬意を払ったことにした。

新しいかかりつけの小児科の先生は、近所でも評判のいわゆる「いい先生」だ。
もう、かれこれ、7年もお世話になっている。
口調も穏やかで、腕もいい。ちゃんと、子どもの目を見て話しかけてくれる。
親の細かな質問にも丁寧に答えてくれる。
そして、嬉しいのは、何度か通院し元気になった時には
「僕もママもがんばったね!」
と労ってくれることだ。
鼻水だけが出る風邪気味の時に耳鼻科でもらった抗生物質を飲ませたことを話した時に、小児科医としての「強い薬はなるべく飲ませない方がいいと思う」という考えを、丁寧かつ真摯に伝えて諭してくれたこともある。
とにかく、親子そろって、先生のファンだ!

時が経ち、漢方の先生も、精一杯対応してくれたのだと思うし、救急病院の先生が、私を叱ってくれたことも、命に係わることだから、有り難いことだったと思える。

しかし、やはり、母親も人間だから、行くたびに怒られたり、知識がないことを責められたりするのはつらい。

逆に言えば、先生も人間で、腕がよくても、口が悪かったり、誠実だけれど、腕がイマイチだったりすることもあるだろう。

診察券が増える前に、相性がいい医者に出会えることは幸運だと思う。

100%満足する医者に出会えるのは、難しいから、小さな違和感に目をつぶりながら、お世話になることも多いとは思うけれど、どうしても、譲れない点で、病院を変えることもあるだろう。
だけど、その時は、その理由は、特に聞かれるまでは、ママ友には言わないでおこうと思う。
聞かれた時も、事実だけを話そう。
私たち親子に合わないからって、他の親子に合わないとは限らない。

口コミというのは、とても参考になるツールだけれど、そこでいい話を聞かないと、自分で確かめる機会を失うことも多い。

悪口を言いふらすのは控えながらも、いい出会いを模索しながら、これからも、少しずつ診察券の数は増え続けるのかもしれない。