涙と笑顔のあいだ

ひといちばい敏感な小学生ひとりっ子男子の子育てを通し、母として成長させてもらいながら「ライター・小説家」になる夢も諦めない40代主婦のブログ

ご近所さんに想像以上に信頼されてもドキドキするものだ!

ピンポーン

玄関のチャイムがなった。

 

あれ? 誰だろう?

 

息子の友達とか、宅配便とか、特に、心当たりがないような時間だった。

 

インターフォンの画面を確認すると、隣の年配の女性だった。

何やらハガキのようなものを手に持って、所在無げに立っている。

お年は、85歳くらいだと思う。

お隣さんということで、Tさんということにしておこう。

 

インターフォンで話すのもなんなので、

「はーい」

と言いながら、玄関のドアを開けた。

 

Tさんは、一人暮らしだ。

だから、時々、Tさんが人にもらいすぎたり、買いすぎた食材やお菓子を

「よかったら、食べて!」

と持ってきてくれることがあった。

今日もそうかと思ったら、そういうわけでもなさそうだ。

 

だいぶ前に、ベットの毛布がうまくかけられないと助けを求められたことがあった。

腰が痛くてできないから頼みたいということだった。

今回もそういう類のものかとも考えられた。

よし! とにかく話を聞こう。

 

「どうされました?」

「これなんだけど……」

申し訳なさそうに、私に見せてきたハガキは、郵便局からのいかにも大事そうな書類だった。

 

え? 私が見ていいのかな?

躊躇したけれど、よく見ないことには、説明できない。

目の前のTさんは説明を求めている。

えーい! ここは、銀行員に戻ったつもりで……。

昔、ロビーでお客さんに、書類の確認を求められた過去の記憶を引っ張り出して、事務的に対応しようと決めた。

「えっと、これは、Tさんのお口座に、こちらの金額の送金がありましたよというお知らせのようですね」

「え? 2万円の?」

「いや? 20万円のようですよ!」

「え? そんなに?」

 

1、10、100、1000、万……。

どう見ても、20万円だけど、数字を見慣れていないと、桁も見間違えるのかと、思いながら、なんだか、ちょっとドキドキしてきた。

「郵便局に行って、通帳を持って行ったら記帳してもらえると思いますよ」

「キチョウ?」

「あ。通帳のここに、この送金の内容が書かれるというか……載ります、多分」

「通帳! ちょっと今時間ある?」

「え?」

どうやら、家の中に入って、詳しく説明して欲しいようだった。

参ったな……。

別に悪いことをしているわけではないし、例えば、騙したり、人のお金をどうこうしようとしているわけではないのだけれど、お金の件で、お年寄りの家に上がりこむことに何か抵抗があった。

「ちょっと待っててください」

私はそう言って、一度家に戻り、息子に

「隣のおばさんに書類の説明を頼まれたから、ちょっと行ってくるね。何かあったら、来てもいいし、電話してもいいから」

と言った。

そう言いながら、深呼吸を一つした。

そうだ! 別に悪いことをしに行くわけじゃないんだ!

気を取り直して、向かった。

 

開け放してあったTさん宅の玄関を入って、ドアを閉めた。

「失礼します」

「ごめんね。急に。誰も聞ける人がいなくて」

まあ、お金のことだから、見ず知らずの人には聞けないし、かと言って、同世代の親しい人過ぎてもきっと嫌だよな。

そう思ったら、まあ、私が適任だったのだろうな、と合点がいった。

「通帳はこれなんだけど……」

信頼してくれている感じは嬉しいが、あまりに無防備に、重要書類を見せてくるものだから、ちょっとドキドキした。

簡単に説明し、郵便局が空いてる平日に、持っていって窓口の人に話すことを勧めた。

付いて行ってあげようかとも思ったけれど、頼まれたわけでもないし、大金を下ろすとしたら、尚更、自分から、申し出るのはやめておいた。

 

「あーよかった。年取ると、いろんなことがわからなくなっちゃって。本当に助かった」

笑顔でそう言ってくれて、私も誇らしい気持ちになった。

「よかったら、また聞いてくださいね」

そう言って、Tさんの家を後にした。

 

一人暮らし、85歳。

 

大変だろうなと思う。

 

一度、信州の方にお住いの息子さんが、遊びに来ていたことがあって

「いつもお世話になっております。どうぞよろしくお願いします」

って言われたことがあることを思い出した。

確か、隣町にも、娘さんがいるらしいけれど、フルタイムで働いていて忙しいって聞いたこともあったな。

 

いろんな事情があるだろうな。

 

時々、気にはするけれど、家族のようには、気にして生活はしていない。

洗濯物があるかな? とか、換気扇が回っているかな? とか、何気なく気にしているけれど。

 

足が不自由で、腕もちょっとリュウマチ気味で、週に一回ヘルパーさんが来ているのは知っている。

 

あー今日はヘルパーさんが来ているんだなって気配は感じる。

 

そういえば、こんなことがあった。

旦那が、災害時の非常食をネットで注文するときに、3人分か4人分か迷っていた。

3人家族なのに、なんでだろうって思ったら、

「隣のTさんのご家族は、災害時、Tさんをすぐに助けに来られるかな?」

って言ってて、びっくりした。

「隣町に娘さんがいるみたいだよ」

って言ったら、

「じゃあいいか」

って結局3人分を注文したけれど、確かにいざとなったら、近所で助け合うことになるかもしれない。

 

別に、我が家がすごいってわけではなくて、逆に、義母が入院した時も、旦那は、週に3回くらい見舞いに行ったけれど、私と息子は週に1回が限度だったし、家族は大事だけれど、それとはまた別の次元で、ご近所さんは、運命共同体になりうるってことだ。

 

どんな距離感で、過ごしていけばいいのか、正直迷うけれど、求められるものを、できる範囲でやりながら、できるだけ、笑顔で過ごせていければいいなと思った。